東の海に吹く風


Final Fantasy Tactics


   



ちょっと大人の


 バリアスの谷に凶悪なモンスターが出たという。旅人との安全を脅かすとのことで、至急討伐されたし、との通告が神殿騎士団に下った。バリアスはグレバドスの聖人。バリアスの谷はその聖バリアスにちなんで名付けられた地名である。

 メリアドールは、神殿騎士としての使命を背負い、仲間と一緒にバリアスの谷へと向かった。そして、そこで見たのは…異様な魔物だった。身の丈ほどもある巨大な植物が動いていた。それはは確かに植物性のものであったが、うねうねと奇怪な動きと共にあたりを這い回っている。メリアドールはその魔物を知っていた。
「モルボル…!」
 口から吐き出す腐臭と長い蔦とで、退治する者を苦しめる手強い相手だった。だがしかし、メリアドールはひるむことなくその魔物に向き合った。狙いを定めて…剣を振り下ろす!――はずだった。けれどその瞬間、剣が鈍った。
「あ――」
 ほんの一瞬の気の緩みが、戦況を悪化させた。モルボルの長い蔓が彼女の腕に絡みついてきた。メリアドールは足を掬われ、体勢を崩した。だが慌てることはない。何故なら、彼女には頼もしい仲間がいるのだから。「お願い! 援護を頼むわ!」
「おう、まかしとけ! 【足を狙う】!」
 バルクがすかさず狙撃をした。足(?)を射貫かれたモルボルはその場に縛り付けられ、ますます蔓を――触手をメリアドールに絡ませてくる。
「ドンムブにしてどうするの!? どうして腕を狙ってくれなかったのよ! この阿呆ッ」
 触手が身体に巻き付く。じわじわと締め上げられ、息が苦しくなり、絶えきれず剣を手放した。なんとかこの忌まわしい触手から逃れようと、メリアドールは身体をよじった。触手はねっとりとした液でおおわれており、掴むことすら容易ではなかった。もがけばもがくほど、触手が絡まる。それでもメリアドールは必死にこの蔓地獄から抜けだそうと試みた。
 バルクの援護はあてにならない。こういう時は同じディバインナイトに頼むのが一番だ。長年、一緒に剣を交えて戦ってきたローファルなら、私の言わんとすることも分かってくれるはず。この触手を早く断ち切って欲しい――そうメリアドールはローファルに、視線を投げかけて懇願した。だがローファルは悲しそうに首を振った。
「メリア、我々剛剣使いはモンスター相手には無力なのだ…」
「一体いつの時代を生きているの? とっくに剛剣はモンスターに通用するようになっているのよ!?」
 具体的に言うと、2007年から、である。メリアドールは役に立たないローファルに毒づいた。「早く次元の狭間から戻っていらっしゃい!」
 ねっとりとした感触が、彼女の脚の中に這い回ってきた。クロスの下から、徐徐に上へ上へと、不快な感触がのぼってくる。脚、太もも、そして股の上に…。「あ、ダメ、それ以上上がってきたら――ああっ」 こらえきれず、口から嬌声が漏れる。
「メリア――」
「ウィーグラフ! 駄目だ見ちゃ駄目だ!」
 ウィーグラフの声をイズルードが遮った。「姉さん、安心して。オレは姉さんがモルボルの触手にいやらしく犯されてるなんて見てない! 絶対に見ないから!」
 メリアドールの弟イズルードは騎士として申し分ない素質を持ち合わせていた。気遣いの出来る真面目な青年だった。そう、とても真面目なのである…。あのねぇイズ、姉さんを気遣うのはいいけれど、そんなことよりも先に助けてくれないかしら? 姉であるメリアドールはイズルードをたしなめようとした、だが、それも難しかった。触手が、もうすっかり身体に巻き付き、首のあたりをなめ回している。悪臭を放つ触手の一つが彼女の口を塞ごうとしていた。別の触手が下腹部を刺激する。メリアドールは今まで感じたことのないような感覚に襲われた。
「――ッ!」 
 もう、限界かもしれない…とメリアドールが思った時、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ほう…これはなかなか良い眺めだ――」独り言のように呟く声。
「そこ! 聞こえてるわよ、クレティアン!」
 メリアドールはとっさに口を塞ぐ蔓を噛みちぎった。「のうのうと見てないで助けなさいよアンタ!」
 すまして立っているこの男に、罵詈雑言を浴びせかけたその時、彼女の上で魔法が炸裂した。彼女を締め上げていた触手が突如力を失って、ようやく彼女は忌まわしい蔦地獄から解放された。モルボルはその場で焼き焦げていた。メリアドールはその場にぺたり、と座り込んだ。腰に力が入らず、とても立ち上げれそうにはなかった。
「ほら、大丈夫か?」
 クレティアンがすたすたと歩いてくると、彼女に手を差し出した。メリアドールは無視した。
「どうしてもっと早く助けてくれなかったのよ」
「魔法は、発動するまでに時間がかかるんだ…分かってくれよ」
「だいたい、私に火が当たったらどうするつもり?」
「それは問題ない。バルクが足止めしていただろう。だいたい、私が魔法を誤爆させると思うか?」
 なおも手を取ろうとしないメリアドールにしびれを切らして、クレティアンは軽々とメリアドールを抱き上げた。そのまま彼女を抱きかかえ、近くの木陰に下ろすと、自分の着ていたマントを脱ぐと、メリアドールに羽織らせた。メリアールの服は、先ほどの死闘でぼろぼろになっていた。ところどころ、生地も裂けて、肌があらわになっている。そんな様を誰にも見られないようにと、クレティアンがマントを着せてくれたのだということは、メリアドールにもすぐ察しが付いた。
「……」
 だが、メリアドールは無言でむっつりと黙っていた。
「メリアドール? 何が不満なんだ? 窮地に陥っていたところを私のようなイケメンが助ける、それもアフターフォローもしっかりしている。これ以上何を望む?」
「そうなんだけど…」
 確かにクレティアンは端正な顔立ちをしている。女性へのサーヴィス精神も申し分ない。不手際なく、慣れた手つきでこなしている。だけど、メリアドールは何故かそこが気にくわなかった。隣ですまし顔をされると、なんとなく、癪に障るのよね…。
 クレティアンはメリアドールを再び抱きかかえると(彼女が立とうとしなかったからだ)、辺りを見回した。疲労を重ねたメリアドールを歩かせることなくミュロンドへ帰還するため、チョコボを探しているのだった。メリアドールは、何も言わなくても自分の尽くしてくれる彼を大切に思っていた。ありがとう、と礼を述べた。すると、ちょっとした悪戯心が彼女の内に芽生えた。
「ねえ、クレティアン…」
「どうした? 今日は災難だったな、今夜はゆっくり休むといい。それとも私の部屋で一緒に寝るか? おいで、優しくするよ」
「ううん、そうじゃなくてね、確かに私、モルボルを相手にするのは大変だったけれど…でもね」
 そこでメリアドールは一呼吸置いた。
「でもね、とっても気持ちよかった。今まで感じたこともないような快感だったの、私、初めてイク瞬間を味わったかも」
 あまりの衝撃的な発言にクレティアンはのけぞった。恋人である自分の目の前で(腕の中である)、「初めてイク瞬間を味わったかも」などと言われては男のプライドがずたずたである。ひどい言われようである。「メリア! 俺に投げ捨てられたいのか!?」 とはいえ、もちろん彼はメリアドールを地面に放り出すこともなく、丁重にチョコボに乗せ、道中で怪我の治癒もしながら、ミュロンドまで連れて帰ってきたのである。

* * *

M:で、一つ納得いかないことがあるんだけど…。なんでモルボル討伐の報酬を私じゃなくてあなたが受けとるわけ?
C:いやいやいや、だって俺がトドメを倒したし…魔法が当たっただろう?
M:どう考えても私が一番苦労したのに! 獲物を横取りされたみたいだわ。
C:はいはい…(なだめる)







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