東の海に吹く風


Final Fantasy Tactics


   



 魔法の使い方


 私は魔法を操るのに長けている。そればかりか自ら編み出すのも得意だった。
「クレティアン、その新しい魔法を私に見せて、ね?」
 メリアドールが瞳を輝かせながら私に聞いてくる。私の地道な努力に興味を持ってくれるのは彼女だけだった。純粋な好奇心に満ちあふれていてとてもかわいい。メリアドールはとても可愛かった。
「本当に見たいのか?」
 私は念を押した。いいのか?本当にいいのか?メリアドールは「魔法を唱える時のあなたってすごく格好いいわよ」と褒めそやしてくれる。私は上機嫌になった。
「これは私が編み出した時の魔法――」
 床に倒れたメリアドールを私は抱きかかえた。これではまるで私が彼女を気絶させたみたいではないか。いや、事実、私がやったのだが。だがうっかりヴォルマルフ様がここを通りかかったら、通りすがりのローファルがこの光景を見たら……間違いなく私を殺しに掛かるだろう。それだけは避けねばならない。一応私は彼女の同意は得ていたのだから。
 私は慌ててメリアドールを人目の付かないところに密かに運びこんだ。ますます姫を盗んだどこぞの騎士のような様になってきた。
 メリアドールは何も知らずにぐっすりと私の横で寝ている。すやすやと寝息を立てる姿はとても愛くるしい。側にかがむと、私の服の裾をいつの間にか握っていた。私はこのまま彼女の上に覆い被さりたい衝動に駆られた――いや駄目だ。騎士道に反する。それは紳士たる振る舞いではない。そんなことをしては二度と彼女から口をきいてもらえなくなる。だが、少しだけ、ほんの少しだけ――と彼女の唇にそっと顔を近づけた。

 * * * 

「あなたがそんな人だとは知らなかったわ、クレティアン! 私に一体何をするつもりだったの? ひどい人!」
 私は気がつくと、すかさずクレティアンを殴り飛ばした。もうこんな不埒な男とは二度と口をきくものか――父に言いつけてやる、と憤慨したその後で、私から彼に魔法を見せて欲しいと頼んだことを思い出した。確かに彼は「本当にいいのか?」と念を押していた。だけどやっぱり説明不足すぎたじゃない。私は悪くないんだから……
「でもいきなり殴っちゃったのは、まずかったかしら。ごめんなさいね、クレティアン」
 ほんの少しの罪悪感を覚えて私は地面に倒れたまま動かないクレティアンを揺すった。星天爆撃打くらいの力で殴ってしまったかもしれない。ごめんね、痛かった?とそっと耳元で囁いた。返事は無かった。
 私は昏倒させてしまったクレティアンの側にしゃがみ込むと、膝に抱き上げてそのまましばらく待っていた。綺麗な寝顔。私は頬を優しく撫でてあげた。あら、口も切っちゃってるじゃない……私のせいね? お詫びの印、と私は傷口を舐め、キスを一つ捧げた。そこでようやく彼も気がついたらしかった。
「メリアドール?」
「これが欲しかったんでしょう?」
「そ、そうだけれど…」
 だけど、何だか違うんだなぁとクレティアンは私の膝の上に抱かれたままぼやいていた。







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