東の海に吹く風


Final Fantasy Tactics


   



 魔法の教え方


「ねえ、クレティアン、魔法剣士ってかっこいいと思わない?」
 教会の回廊を歩いていると、唐突にメリアドールが尋ねてきた。私は特に関心を払わず、さあ、と答えた。
「だって魔法と剣技の両方を使えるって素晴らしいわ。ウィーグラフが戦っているところ、見たことある? 聖光爆裂破! あれって剣を振るだけでホーリーが発動するのよ。憧れるわ」
「ホーリーなら私も使えるのだが…それとも、剣を持たない騎士である私に対する皮肉か?」
 バルクに言われようものなら直ぐにでも絞め殺してやるところだが、メリアドールが言う分には全くの許容範囲だ。
「違うったら、そう卑屈にならないの! ローファルは剛剣と一緒に全魔法も使えるのよ。私だって同じディバインナイトなんだから、私が剛剣しか使えないのは不平等だわ」
 ローファル、全魔法使ってたか?と私は考え込んだ。確かに奴はいくつかの陰陽術を修得していた。いやむしろ乱心唱と沈黙唱を使っている姿しか見たことがない。それでいて白・黒・召喚・時魔法を地道に学んできた私と同じ全魔法を名乗っているのだから不公平極まりない。
 不満そうな私の顔を見て心中を察したらしいメリアドールが言った。「陰陽術だけじゃないわよ、ローファルはデジョンだって使えるわ!」
「いやまだゲルモニーク聖典奪ってないじゃないか。それに、あれは魔法か…?」
 メリアドールはするりと私の前に身を乗り出した。
「私も魔法を使ってみたいの。私に教えてくださるかしら、ドロワ先生?」
「ん…まあ、いいだろう…私が手取り足取り教えてやろう」
 年下の可愛い神殿騎士に頼られて悪い気はしない。満更でもない。それに教授と称して軽いスキンシップだって……これは絶好の機会だ。
「隙をみて私に触ろうなんて考えてないでしょうね。だめよ、そんなことしたら剛剣でたたき伐るわよ?」
「も、もちろんだとも…」
「そうよ、おとなしくしてたら私からご褒美をあげるから、だからきちんと礼儀正しくしてるのよ」
 メリアドールはすかさず私の手を取って言うことをきかせる。私はうなずいた。――いや、ちょっと待て。教える私が褒美をもらう側なのか? 立場が逆じゃないか、メリアドール? おかしくないか?
「クレティアン、さあ早く!」
 しかし、外の中庭へと急かすメリアドールの満面の笑みに、ささやかな疑問は霧散した。私は彼女に腕を引かれていった。仕方ないなぁ。

* * *

「さて、ダークホーリーの詠唱だが……」
「ちょっと待って、年頃の婦人にいきなり闇魔術を教えるわけ? そんな汚らしい魔法なんて嫌にきまってるじゃない」
 だいたいディバインナイトが闇魔術なんて使えるわけないじゃないの、世間体を考えてよね!と、メリアドールはいきなり機嫌を悪くした。
「あのなぁ…確かにダークホーリーはホーリーに射程も威力も劣るが、リフレクを貫通するというメリットもあるんだぞ?」
「ふぅん…」
 全く興味が無い様子だった。仕方ない。別の魔法に切り替えるか。
「なら白魔法なら満足だな? アレイズはどうだ?」
 これにはメリアドールもうなずいた。実用性も十分である。
 私は彼女の耳元にそっと囁いた。「生命を司る精霊よ、失われゆく魂に、今一度命を与えたまえ――」本当ならこのまま後ろから抱きついて、そのまま【ご想像にお任せします】したいところだが、触るなとのお達しがあったので、私はそれに忠実に従った。私はこれでも、彼女に対してはかなり紳士的な――聖人的といっても良い――な振る舞いに徹してきた。彼女にはそれを可能にさせる魅力があった。メリアドールは私にとって、愛らしくて、それでいてまるで聖女のように尊い存在だった。
 私が教えた通り、メリアドールはせっせと魔法の鍛錬に励んでいた。私は側で見守った。白魔法といえども、怪我でもさせてしまったらいけない。いくら一人前の神殿騎士といったって、わたしから見たらまだほんの小娘だ。危なっかしくて目を離せない。
「これで私もアレイズを使えるようになるかしら?」
「もちろん。やってみてごらん」
「じゃあ試してみようかしら…」
 その時、さっとメリアドールが私に抱きついてきた。やれやれ、私もやっとご褒美にありつける……メリアドールは首すじに腕を回している。そのまま優しく私の口を塞ぐように唇を重ねてきた。
「ああ、メリアドール――」
 情熱的な口づけにしばしうっとりとする。そのまま恍惚に身を委ね――首を絞められるすんでの所で私は彼女を引きはがした。
「ひどい、何も放り投げなくったっていいじゃない。私もアレイズが使えるようになったかどうか試してみたいの、ねぇ、お願い。私ならきっとうまく蘇生させられるわ!」
 いくら可愛いメリアドールにお願いされたって嫌なものは嫌なのである。彼女のためならこの命、惜しくはない。だからといって、何も進んで命を捧げるつもりはない。
「外でやりなさい!ゴブリンでも倒してくればいいじゃないか。人は駄目だ! 絶対に駄目だからな!?」
 私は無邪気にじゃれついてくるメリアドールを何とか引き離した。危なっかしくて目を離せないのだ。本当に。
「ねえ、クレティアン、どうして私がアレイズを習いたいか知ってる?」
「…さあ?」
「戦場ではたくさんの命が散っていく…戦士たちはいつだって死と隣り合わせ。私はね、あなたが負傷して帰ってくる度に心配で心配でしょうがないの」
「……」
「だから、私はあなたを守りたいと思ってる。私が白魔法を使えたなら、少しでも手助けになるかなって――でもあんまり怪我しないでね。あなたって人はいつも自分を犠牲にするんだから…!」
 私だって、騎士の誇りにかけて命掛けて君を守るつもりだ――そう言うつもりだった。が、今はメリアドールの好意に甘えておこう、と私は思った。ありがとう、メリア。いつもすまないね。 


・メリアドールは永久リレイズなシャンタージュ持ちなのでどう見てもメリアの方が強いし最後まで生き残ります。






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