東の海に吹く風


Final Fantasy Tactics


   


父と子



 
さてもかの日の暮れ時に
   惨憺極むリオファネス
すでに日はなく窓辺より
   夕闇の寥さし落ちぬ
城内もはや人気なく
   聖堂つらぬく身廊に
したたる血花点々と
   あちらに倒るは城兵か
こちらに倒るは僧兵か
   虐殺せらるる者どもの
声なき怨嗟みちみちて
   寂寥凄しその真中
手練の騎士のひとり立つ
   手には煌めく血の剣
紫紺の法衣も色かはり
   血染めの赤となりにけり
されど其の騎士声もせず
   ほくそ笑みたり不敵にも
かくもその様鬼のごとく
   這ひずりまはる兵どもに
喰らひつかむと欲す時
   さへぎる声あり「いざ待て」と
「我は見たりその非道
   悔ひ改めよとくなほれ」
幼き人の泣き叫び
   手をば広げてすがり付く
騎士は「知らぬ」と言ひ捨てつ
   剣をば取りてうち払ふ
あはれ其の子や無慚にも
   愛する父にぞ撫で斬られ
無念のうちに地に臥しぬ
   幼き人は剣を抱き
「天にまします我が神よ」
   かぼそく祈る其の声を
騎士は聞きたり子の祈り
   「赦すしたまへやかの者を」
顔は蒼みて声ふるへ
   瞑目しつつ祈りつつ
手には恩赦の印あり
   「赦したまへや」声やがて
静かに消えつその時に
   胸に抱きし剣すべり
三たび地にうち転がりぬ
   騎士はそを聞きかしこみて
ひざまづきたり子の前に
   御声にしたがひひたすらに
とかくに殺戮したれども
   あとに残るは虚無の闃
慟哭するも時遅く
   ああ聊爾なりや「ファーラム」と



2012.04.09




・騎士→ヴォルマルフ、幼き人→イズルードで。そんなにイズは幼くないと思いますが(ちゃんと騎士やってましたし)、騎士が二人もいると書き分けられないという中の人の諸事情があったりします。
・リオファネス城でのティンジェル親子。イズルードはかつての父であり今はルカヴィであるハシュマリムを<自分が倒さねば>と強く思うも、ハシュマリムの姿に騎士であった父の面影を見てしまい、また、父のことをとても愛してとても尊敬していたから、どうしても父であるハシュマリムに剣を向けることはできず……一方ハシュマリムはその時もうヴォルマルフの自我は吹飛んでいて何も思うことなく息子を殺戮するけれど、事が終わった後で突然ヴォルマルフの自我を取り戻して、物言わぬ息子の姿を見て激しく慟哭し、イズルードが最期まで自分に抵抗することなく執り成しを願い続けていたことに気付いて人知れず涙する……という展開でした。





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